海外進出支援室
人材戦略
コロナ禍以降、在外邦人(長期滞在者)は減少傾向
コロナ禍以降、在外邦人が減少しています。
外務省のデータ(海外在留邦人数推計推移)によると、海外に在留している日本人のうち「長期滞在者」の数がピークの2019年(89万人)から年々減少し、2023年は71万人になっています。(「長期滞在者」とは、「3か月以上の海外在留者のうち、海外での生活は一時的なもので、いずれわが国に戻るつもりの邦人」と定義されており、おおむね海外駐在員とその家族の数を表していると見ることができます。)
実際に、当社のお客様である海外進出企業からも、海外子会社に派遣する海外駐在員の数を減らしたいというお話をお聞きするケースは増えています。
海外駐在員が日本本社に帰任すると、その経験を活かして国際部門や海外統括部門で貴重なグローバルタレントとして活躍する人も多い反面、残念ながら転職活動を始めてしまう人も少なくありません。
ではなぜ、海外駐在員が帰任後、転職活動を始めたり退職したりしてしまうのでしょうか。
海外駐在員が帰任後、転職したくなる3つの理由
海外駐在を終えた帰任者が転職をしたくなる理由は、主に以下3つがあげられます。
- 海外で働き生活したことによって価値観が変わった
- 本社では現地に比べて裁量権や自由度が少ない
- 帰国後に年収が大きく下がる
「3. 帰国後に年収が大きく下がる」については近年の大幅な円安によって足元では減っている可能性がありますが、反対に「1.
海外で働き生活したことで価値観が変わった」「2. 本社では現地に比べて裁量権・自由度が少ない」については、ほぼ全ての人がそのように感じると考えておいて間違いありません。
会社としては貴重なグローバルタレントが流出するということであり、また中には将来の幹部候補育成のための投資という位置付けで派遣した駐在員がいる場合、帰任者の退職は大きな損失となるため、何とか転職・退職を食い止めたいところです。
海外駐在帰任者の退職をいかに食い止めるか。そのキーワードは、「自律的キャリア形成」なのではないでしょうか。次項にて詳しく解説していきます。
自律的キャリア形成は「働き手」が主語
「自律的キャリア形成」「キャリア自律」というワードは、最近よく耳にするようになった注目のワードです。世の中が目まぐるしく変化し、労働市場が流動化していく中で、その舵取りを会社に委ねないというように、どちらかというと「働く側」に求められるスタンスや動き方、という意味で使われます。
「自律的キャリア形成」について改めて定義を調べてみると、以下のように説明しています。
自律的キャリア形成の定義
- 自身のキャリアを見据え、主体的に目の前の仕事に意味付けしながら働き、時代環境に合わせて継続的に学んでいる状態
- 「日本の人事部」は、企業や組織に依存するのではなく、個人が自身のキャリアについて向き合い、主体的にキャリアを開発していくこと
参照先:GLOBIS「組織を強くする「キャリア自律とは ~企業が支援する意義と、促進・定着に導く方法~」
上記のように、いずれも「働き手側」を主語に書かれています。
優秀な人材は自身のキャリアを自律的に形成することを会社に期待している
企業の人事部門や海外駐在員をマネジメントする立場の方に改めて認識していただきたいことは、以下2つの原理原則です。
- 優秀な人材は自身のキャリアを自律的に形成しようと考えている
- 会社・上司には、それを理解し支援してもらえることを期待している
昨今、上記2つの原理原則は多くの企業で認識されており、従業員の自己啓発のための費用負担をしたり、教育研修プログラムに「キャリア教育」を取り入れたりする企業は増えていると感じます。
それに加えて「海外駐在員」を恒常的に派遣している企業では、ぜひ海外赴任者・帰任者に対するキャリアカウンセリングのメニューや体制を充実させてほしいと思います。
海外赴任者・帰任者と行う面談・キャリアカウンセリングが重要
海外赴任者・帰任者が転職せず自社で働いてもらうためにはキャリアカウンセリングのメニューや体制を充実させてほしいとお伝えしましたが「赴任中」「帰任者」「帰任したばかり」「これから赴任する」それぞれの状況に合わせて内容を変える必要があります。
- ●海外赴任中・帰任者:面談をして過去~未来のキャリアを可視化する
- ●帰任したばかり・帰任命令を出した駐在員:本人の希望(キャリアビジョン)に耳を傾ける
- ●これから赴任する人材:赴任前研修にキャリアカウンセリングを取り入れる
海外赴任者・帰任者と面談をして今後のキャリアを可視化
海外駐在員を派遣している企業が赴任者・帰任者に行うキャリアカウンセリングなどの1つとしてまず、現在海外に赴任している駐在員の方と、面談することから始めてみてはいかがでしょうか。
赴任前には現地でのミッションや達成すべき目標が明示されているはずですし、月単位・週単位で定期的な業務報告は行われていると思います。
そこからさらに少しスコープを拡げて、着任~現在までに出した成果・今行っていること・今後行ってほしいことなどを棚卸しするとともに、「会社」と「本人のキャリア」の両側から、話し合いの中でその意味・意義を可視化していく対話の機会を設けるのです。
以前から、多くの駐在員が「人事は海外の事情をわかっていない」という不満を唱えています。各国への渡航は既に概ね正常化しているので、ぜひ今後は人事部の方も積極的に海外拠点を訪問すべきです。
帰任したばかり・これから海外派遣される駐在員に行うとよい対話
次に優先順位が高いのは、最近日本に帰任した人材・既に帰任命令を出した人材です。ここでは、海外で担った役割や成果を労いながら、今後の期待(キャリア機会)を伝えるとともに、本人の希望(キャリアビジョン)にも耳を傾けます。
また、これから海外に派遣される人に対しては、「赴任前研修」のプログラムの中に、ぜひキャリアカウンセリングを取り入れてほしいと思います。
海外で担うべき役割やミッション・発揮(開発)してほしいスキルなどを伝えるとともに、本人の今後のキャリアプランと照らし合わせながら今回の海外駐在の意義を言語化します。
海外赴任中の駐在員は体制充実のため、ぜひ会社に働きかけを
もし今現在、海外に駐在している方がこのエッセイを読んでおられるとしたら、こういった「キャリア自律への応援体制」が整えられていることを当たり前と思わず、自ら進んで上司や人事部にはたらきかけ、そんな機会を作ってほしいと思います。
海外で行ってきたこと・出した成果に対する自負や反省・感じた不便やストレスなどについて、一旦すべて棚卸しすることは今後のキャリアを考える上で大切であるだけでなく、精神衛生にもつながります。
その上で、海外で身に付けたスキルや気付きを十分に生かすことができ、自身が描いているビジョンに近づくための、会社と個人の相互にメリットがある最適な(ひょっとしたら転職するよりもよい)オポチュニティが社内にこそあるかもしれません。
まとめ
この記事では、海外駐在員が日本に帰任した後に転職・退職してしまうことがないようにする方法についてまとめました。
特に重要なポイントは以下3つです。
海外駐在員が転職してしまわないためにおさえるとよいポイント3つ
- 「人事は海外の事情をわかっていない」と唱える海外駐在員は多い
- 優秀な人材は自身のキャリアを自律的に形成しようと考えており、会社には理解し支援してもらえることを期待している
- 現役駐在員・帰任者・これから派遣される人材と面談やキャリアカウンセリングを行う
こちらの記事でまとめたことを動画でも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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