海外進出支援室
人材戦略
【人材戦略】第5回.海外進出と人材戦略
~成功した日本の企業の事例と成功要因
本コラム『グローバルビジネスと人材戦略』では、海外進出企業が押さえておくべき人材確保の要点を、全5回にわたって解説しています。
海外進出と人材確保シリーズ(全5回)
- 日本企業の海外事業の進化 ~3つの発展段階
- 海外事業の進化と必要な人材の変化
- 初めての海外進出、人材はどう手配するのか
- 人材確保で注意すべきポイント5選
- (本記事)日本企業の成功事例とその要因
海外進出企業にとって、国内外での人材獲得競争は事業の成否に一層大きな影響を及ぼすようになっており、「採用力」を高めることが急務です。
前回のコラム「第4回. 企業が海外進出する際に注意すべきポイント5選」では、海外進出企業が人材確保に困らないための要点として以下の5点を挙げて解説しました。
本稿では、実際に10社の海外進出企業に対して実施したインタビューの結果をもとに、海外進出企業各社が実際に行っている海外駐在要員確保の取り組み5つをご紹介します。
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海外進出企業10社が行っている駐在要員確保の取り組み
こちらでは、海外進出企業のうち、人材確保に成功している企業10社に実際にインタビューを行い、海外駐在要員をどのように確保しているかご紹介します。主な取り組みは上記の5つでした。
話をお聞きした各社は、おおむね10~20年前に海外進出を行った企業で、それぞれが試行錯誤を繰り返しながら、信念をもってさまざまな人材確保の取り組みを行っています。 ※社名はA~Jで表しています。
海外駐在要員確保の取り組み1. 即戦力人材を外部市場から調達する(語学力や海外勤務経験を有する人材の経験者採用)
― 現時点では比較的即戦力となりそうな人材を外部人材市場から調達している(A社)
― 比較的即戦力性の高い人材を中途採用する(H社)
― 海外とのやりとりを伴うような職務に就く人材は、予めビジネス英語の素養をもつ人材を外部採用する(J社)
海外駐在要員確保の取り組み2. 計画的な採用を行う(将来を見越して英語力や海外留学経験を有する人材を採用する)
― 経営者の意向で早くからバイリンガル人材の採用、育成が行なわれている(C社)
― 新卒採用では積極的に英語ができる人材を採用している(E社)
―「海外、英語にエッジを利かせた採用」(主に新卒採用)(G社)
― 近年は、新卒採用で英語ができる人材を意図的に採用している(I社)
海外駐在要員確保の取り組み3. 海外トレーニーを派遣する
― 今後のグローバル人材需要の増加に対しては、海外トレーニーを積極的に派遣することで、計画的に内部労働市場からの確保を進める(B社)
― 今後は間接部門にも国際対応力を有する人材が必要なため、折に触れて海外出張の機会を与えていく(I社)
海外駐在要員確保の取り組み4. 計画的なローテーションを行う
― マネジメント適性を有する人材に海外経験を積ませることでグローバル人材に育てる(D社)
― -欧米への派遣(技術研修)で海外耐性を身に着けた社員が、帰国後に再度マネジメントとして他国に赴任するようなサイクルが回っている。(E社)
― 二段階の海外派遣による駐在員(現地トップ要員)の育成(G社)
― 数は少ないが素養をもった人材を社内ローテーションによってグローバル人材に育てる(H社)
― 各国にコーディネイターとして赴任している中堅クラスの人材は、将来の海外現地トップとして派遣される要員の準備要員(プール人材)という位置付け(E社)
海外駐在要員確保の取り組み5. 派遣までに充分なリードタイムを設ける
― 派遣に際しては充分な準備期間を与えて不足する能力の養成に充てる(D社)
― 次課長クラスの人材の中から、マネジメントやコミュニケーションの能力を重視して一定数の次期派遣要員候補を見出した上、赴任前の半年~1年を「事業企画」という海外事業の管理を行なう部署に異動させ、赴任に際して不足する経験や情報を得させる(I社)
海外駐在要員確保の際、おさえておくとよいポイント3つ
ここまで、海外進出に成功している日系企業10社にインタビューを行い、それぞれの企業が海外駐在要員確保のために行っている主な取り組みを5つまとめました。
こちらでは、それぞれの企業が行っている取り組みをいくつかピックアップし、おさえておくとよいポイント3つをご紹介します。
海外駐在要員確保のポイント1. 期間は短期・中期・長期で行う
海外駐在要員の当座の需要を即戦力採用(別の海外進出企業で海外赴任経験がある人材の経験者採用)で充足させた上、その後の要員については、短期・中期・長期のそれぞれの時間軸で確保に努めています。
まず経験者採用を行う場合、実際に海外に派遣するまでのリードタイムを適切に設計することが必要です。どれだけ豊富な経験をもっていたとしても、自社のことを十分に理解していない人がいきなり海外拠点に派遣されて期待する成果を上げるのは難しいことです。
関係する各部署の役割分担や製品・サービスの特長、また社内のキーパーソンとの関係作り(社内人脈形成)を行うためにはある程度の期間を要します。
しかし、この期間をむやみに長くすることにはデメリットもともなうので注意が必要です。
もちろん、必要な期間をしっかりと確保することは大前提ですが「無条件で1年間の工場勤務」「能力に応じて2~3年で判断」というような条件を付けることは、海外進出企業での経験豊富なプロフェッショナルの募集においてはナンセンスというほかありません。(候補者が優秀な人材であれば、計画性や判断力の欠如を疑われかねません。)
海外駐在要員確保のポイント2. 十分なリードタイムを設ける
次に、既存の従業員から駐在員を選任する場合、英語力が不足している場合が多いのですが、D社・I社では、海外赴任の辞令を早めに交付することでリードタイムを十分に確保し、赴任に向けた能力(英語力)の育成を行っています。
近年、従業員に対して一律的に英語学習を課している企業は増えていますが、目的もなく義務的に学習するよりも、海外赴任という具体的な目的や期限のある人の方が、より強い動機や主体性をもって英語学習に取り組めることは言うまでもありません。
また中期的には、社内で海外駐在員としての適性を有する人材をいかに見いだすかが重要で、B社やI社が行っているような海外トレーニーの派遣や、H社・I社のような段階的な派遣は有効です。
最後に、10~15年後の海外駐在要員としては、次の春に入社する新卒新入社員も十分にその候補になり得ます。
帰国子女に加え、海外留学やバックパッカーの経験を通して語学力や海外に対する強い関心をもつ学生は新卒募集を行う企業から人気の存在ですが、海外事業の展望や将来的に海外出張・海外駐在のチャンスがあることを明示したうえで、海外事業に携わっているOB・OG社員の力も活用しながら果敢に採用するのです。
海外進出の歴史・展望を1つのコンテンツとして用いる
余談ですが、海外進出企業は、成長市場へとアグレッシブに挑んでいる事実から就職活動を行う学生に対して前向きな印象を与えます。
また一部企業のTV・CMで見られるように、海外進出のプロセスにおけるドラマチックな出来事は、その会社での仕事のやりがいを想像させるストーリーとして強い訴求力をもちます。
新卒採用に限らず、自社の海外進出の歴史や展望を人材募集の1つのコンテンツとしてアピール材料に使ってみてもよいのではないでしょうか。
まとめ:海外進出成功企業が行う駐在要員確保の取り組み
本稿で述べたことは、海外進出企業において海外駐在要員・支援要員確保に対する戦略や計画性がたいへん重要であるということです。
事業環境の変化によって海外事業そのものの計画が変わってしまう可能性も踏まえ、人材確保の不確実性が最小化しておく必要があります。
海外進出を機に立案した人材戦略を折に触れて点検し、最新の事業計画や戦略との連動を図っていくことができれば、それは海外事業の持続性(サスティナビリティ)を高めるだけでなく、企業の持続的成長にもプラスになるはずです。
なお海外進出企業10社に対するインタビューの詳細は、拙著「海外事業を加速する 中途採用の成功法則」(アメージング出版,2023年6月発売)でご覧いただくことができます。
また、「海外駐在員の探し方」というテーマで動画も公開しています。海外駐在要員をお探しの企業ご担当者様はあわせて参考にしていただければと思います。
【海外駐在員の探し方】課題によって違う人材を海外に派遣すべき?これから経営現地化を進めていくためには?
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