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人材戦略

グローバルビジネスにおいて即戦力となる人材 グローバルビジネスにおいて即戦力となる人材

第4回.企業が海外進出する際に
注意すべき人材採用のポイント5選


本コラム『グローバルビジネスと人材戦略』では、海外進出企業が押さえておくべき人材確保の要点を、5回にわたって解説しています。

海外進出と人材確保シリーズ(全5回)

  1. 日本企業の海外事業の進化 ~3つの発展段階
  2. 海外事業の進化と必要な人材の変化
  3. 初めての海外進出、人材はどう手配するのか
  4. (本記事)人材確保で注意すべきポイント5選
  5. 日本企業の成功事例とその要因

海外進出企業にとって、国内外での人材獲得競争は事業の成否にいっそう大きな影響を及ぼすようになっており各社にとって「採用力」を高めることが急務です。

前回のコラム「第3回. 初めての海外進出、人材はどう手配するのか」では、海外進出にともなう人材採用について、進出国におけるナショナルスタッフの採用と日本本社における海外駐在要員の確保の2つの観点から、それぞれにおける人材確保で重要なポイントを述べました。

本稿では、企業が海外進出する際に注意すべき人材採用ポイント5つとして、前稿をさらに各論にかみ砕いて解説していきます。

目次 click

海外進出時の人材採用ポイント1. 適切な募集を行うこと(時期・要件・処遇)

日本企業が海外進出する際に注意すべき人材採用のポイント1つ目は、時期・要件・処遇を適切に設定することです。

前回のコラムで述べた通り、募集や面接など人材採用経験が豊富な人物を海外現地法人に派遣することができる企業は限られており、ゆえに多くの海外進出企業が海外現地での人材採用に苦戦しています。

それらの問題に対し、現実的な解決策として「①本社が支援する」「②適切な外部パートナーを見つける」の2つが重要であると述べました。

現地と本社の認識を合わせること、適切な時期について解説していきます。

現地労働市場の最新情報を知る ~現地と本社の認識合わせ

本社が適切な支援を行うための第一歩は、現地労働市場の最新情報を入手することです。海外では、日本に比べて賃金相場の変動(上昇)が激しく、それを知らずに募集を行うと思うような効果は出ません。

賃金相場の変化は、経済成長にともなう物価上昇だけでなく、同地域への外資系企業の参入や近隣地域での新たな工業団地の開設などによっても起こります。
現地の情報をアップデートすることは現地駐在員の役割かもしれませんが、赴任して間もない駐在員の場合はその情報源や人脈をもっていないこともあり、情報収集の段階から本社がサポートする必要があります。(帰任者の人脈を活用)

賃金相場の上昇による影響は、給与額の上昇だけにとどまりません。大手企業が支給するほどの金額を提示することができない企業は、候補者に対して給与額以外の魅力付けを行おうとします。候補者に対して給与面の不利を補うため、福利厚生や職場環境の充実・改善をしたり、求人票上でその仕事や企業の魅力をより強く訴求したりします。

すなわち、求職者が職場に求める“当たり前”のレベルがどんどん高くなるのです。ここで、周辺企業に比べて魅力的な福利厚生や働く環境作りができなければ、人材採用におけるライバルの後塵(こうじん)を拝することになります。

ライバルとの人材獲得競争に勝利するため、本社側でも現地労働市場の情報を常にアップデートしておかなければなりません。

適切な時期に募集を始める

ナショナルスタッフをいつ採用すればよいのか、またその募集をいつから行うべきかについては、業種や海外進出の形態などによって個別に異なります。

また、一言でナショナルスタッフといっても、工場の稼働にともない必要となるオペレーターと、法人設立の準備段階から必要となるホワイトカラーの人材とでは手順やスケジュールが異なります。

また進出国それぞれのよって異なる法令や慣習についても押さえておく必要があります。

これらは、よほど長く赴任しておられる方か人事の専門家でなければ入手・解釈が難しい情報ですので、信頼できるパートナー(コンサルタント)から最新の情報を得られるようにしておくのがよいでしょう。

ナショナルスタッフの採用に至った場合でも、契約関連の進め方が国によって異なるためトラブルを未然に防ぐことができます。

海外進出時の人材採用ポイント2. 駐在予定者の採用力を高めること

海外進出の際の人材採用における注意点2つ目は、駐在予定者の採用力を高めることです。いくら本社がサポートするとしても、海外進出後も次々と人材採用を行う予定の拠点においては駐在員自身の採用力を高めていくことは不可欠です。

採用力とは、いわば「仲間を増やす能力」でありビジネスパーソンにとって今後ますます重要になっていくスキルです。海外駐在を将来の経営幹部としての登竜門と位置付けている企業では、この上ない訓練機会でもあります。

では、採用力とはどのようなスキルなのでしょうか。

面接力とは人材から「選ばれる力」

詳しくは、拙著「海外事業を加速する 中途採用の成功法則」(アメージング出版,2023年6月発売)で事例を交えて詳しく説明していますが、ここでは「面接力」に絞ってお話しをします。

一朝一夕には身に付かない技術的な話はさておき、私がもっとも強調しておきたいことは、面接は候補者の合否を判断する場であると同時に、面接する企業や面接官が“選ばれる場”でもあるということです。

何をもって選ばれるのかというと、まず「その仕事に就くことが自身のキャリアにどのようなプラスをもたらすか」です。その上で、「この職場が自身にとって快適な場であるか」、「この人(面接官)が自身にプラスをもたらすボスであるか」が問われるのです(先ほど重要だとした給与条件はどこにも出てきませんね)。

その反面、面接力の低い面接官がどのような面接を行っているかご紹介します。

レジュメを凝視して転職歴を“尋問”する面接官は選ばれない

私たちが立ち会う面接で、面接官の最も残念な行動は、ほとんど候補者の顔に視線を向けることもなく、終始レジュメを凝視して一つ一つの転職歴についてその理由を“尋問”するというものです。

たとえば、新興国の30~35歳くらいの人材は、同世代の日本人とは比較にならないほど転職を繰り返しています。頭では「海外では転職回数が多いのが普通」と理解をしていたとしても、いざ候補者を目の前にすると、どうしてもその人の性格に問題があるのではないかと不安でたまらなくなるのです。

大事な採用ですから、その人の信頼性を納得のいくまで確かめるという考え方は決して間違いではありません。

ただし、そこに時間をかければかけるほど、候補者が「その仕事に就くことが自身のキャリアにどのようなプラスをもたらすか」を判断するための情報を得る時間は少なくなり「この人(面接官)が自身にプラスをもたらすボスであるか」に疑念を抱いてしまうということを忘れてはなりません。

面接のスキルを一朝一夕に高めることはできませんが、多くの海外進出企業で行われている赴任前研修の中に、たとえ30分でも面接官として採用面接に臨む基本姿勢のようなことを盛り込むことは難しくないはずです。

このように、進出国への駐在予定者が人材から「選ばれる面接官」となる採用力を高めることが重要です。

海外進出時の人材採用ポイント3. 駐在要員のパイプラインを確立すること

前回のコラム「3.初めての海外進出、人材はどう手配するのか」で、海外駐在要員を生み出す仕組みを作ることが重要であることを述べました。

海外進出企業にとって、駐在員を一定の任期でローテーションすることで意図的に帰任者を作ることは、先述の「組織としての国際感覚」を高めることにつながります。また、実務的にも海外駐在員や海外拠点に対する強固な支援体制となるため、3つ目としてはパイプラインを確立させることが重要です。

しかし、次々と駐在員を派遣できるほどの十分な人材を抱える企業は決して多くありません。よって、人材確保が大きな課題となるのですが、決して悲観する必要はありません。

海外進出を決めた時点でパイプライン作りに着手すれば、海外駐在要員不足の企業でも人材を確保することができます。

たとえば5年周期でローテーションを行うとしたら、後任が必要なのは5年後、その次の後任が必要になるのは10年後です。

もし仮に、初代の派遣要員が社内で見いだせない場合は、比較的即戦性の高い人材を経験者採用し、その人の赴任準備が整うまでは既存の管理職の中から短期で派遣します。海外生活の経験がなく外国語も得意でない場合が多いため、臨時的に通訳や経済的な補助を厚くして万全を期します。

それができれば、5年後・10年後は既存の従業員の中から候補者を見いだし、動機付けを行った上で語学の習得や短期出張による“海外慣れ”の機会を与えます。さらにその次となる15年後であれば、次の春に入社する新卒社員でさえも候補になり得ます。

このように、海外進出を意思決定したタイミングでこの「駐在要員のパイプライン」作りに着手することが重要であり、そうすれば決して海外駐在要員の確保が後手に回ることはありません。

海外進出時の人材採用ポイント4. 現地と本社の情報ギャップを埋めること

企業が海外進出する際の人材採用における注意点4つ目は、現地と本社の情報のギャップを埋めることです。

情報のギャップを埋めるためには「現地とのコミュニケーションを密に行う」「組織としての国際感覚を磨く」ことが重要です。それぞれ解説していきます。

現地とのコミュニケーション不足が人材採用を難航させている

多くの海外進出企業で、現地と本社のコミュニケーション不足が人材採用の難航原因となっていることは珍しくありません。先述の賃金相場に対して本社側の認識が旧く(ふるく)、現地から寄せられる雇用条件についての申請が「高すぎる」と却下されることに対して、多くの海外駐在員は不満を唱えています。

また、現地の採用スピード感を理解しないままに、採用の最終意思決定を「次の役員会のタイミングで決定する」というように無用に長引かせることも駐在員のストレスになっています。

特に新興国においては、採用市場やそれに影響を及ぼす社会環境の変化は速く、過去に赴任していた人がもつ現地情報も気付けば陳腐化しています。

組織としての国際感覚を磨く

関係者の海外出張の頻度を増やすなど、コストと工数をかければ現地と本社の情報ギャップを埋める手立てはいくつもありますが、現実的にできることには限りがあります。よって、ここで意識すべきことは「組織としての国際感覚」を磨くということです。

注意点3. 駐在要員のパイプラインを確立すること」で述べたように、意図的に帰任者(=経験者)を増やすことに加え、製造・営業といった事業部門以外に以下のような経験者を採用することは非常に有効です。

  • ・ 人事や法務、情報システムといった間接部門人事や法務、情報システムといった間接部門
  • ・ 意思決定に関わる経営幹部層に海外赴任や海外ビジネスの経験者

現に、当社がお客様からお預かりする経験者採用の求人募集は、海外駐在の予定がない職種においても海外勤務経験を歓迎する求人が増えています。

このように、駐在員として海外派遣する人員には限りがあったとしても、実務で海外と関わる機会を作り、相互の意思疎通を密にする。またそのために海外拠点の従業員や海外顧客などと直接コミュニケーションを取ることにちゅうちょがない人を意図的に増やしていくことも海外進出企業にとって重要なことです。

海外進出時の人材採用ポイント5. 経営現地化と、それを支える本社のマネジメント体制をデザインすること

海外進出の際の人材採用ポイント最後の5つ目は、経営の現地化とそれを支える本社のマネジメント体制をデザインすることです。それぞれについて解説していきます。

海外進出企業の永遠の課題「経営現地化」

「経営現地化」は、多くの海外進出企業にとって、永遠の課題といえるでしょう。各社が経営現地化を目指す主な動機は次の3つです。

 ● 経営現地化の動機

  1. 1. 海外派遣要員の“人繰り”に苦労している
  2. 2. 駐在員を派遣する際のコストがかさむ
  3. 3. 事業を現地化するため現地人材に職務・権限・責任を委譲したい

本社からのコントロールが利かなくなると取り返しのつかないミスになることも

一方で、派遣する駐在員の数を減らすなど、現地での意思決定への関与が弱まると、現地のブラックボックス化が問題となります。戦略や方針に対して本社からのコントロールが利かず、場合によっては取り返しのつかないミスや不正が起こってしまうというガバナンス不全です。

しかし、現地の優秀人材にとって、行使できる権限や責任の大きさはその仕事(求人)の魅力を左右する重要な要素です。反対に、重要な意思決定には関与できず、一定以上のポストには就くことができない、いわゆる「ガラスの天井」は、優秀人材確保の大きなネックとなります。

経営現地化のゴール(あるべき姿)は企業によって異なりますが、「注意点4. 現地と本社の情報ギャップを埋めること」で述べた組織としての国際感覚を磨くことは、現地のビジネスに応じた適切な現地化を進める上での前提条件となります。

「気付いたら現地がブラックボックス化しているので改めて日本人駐在員を派遣することにした」というような後戻りは意外と多いものです。

そのため、経営現地化については本社がコントロールできるようにマネジメント体制をデザインすることをおすすめします。

海外進出時に注意すべき人材採用ポイントまとめ

この記事では、日系企業が海外進出の際に注意すべき人材採用のポイント5つについて解説してきました。長年にわたって海外進出企業のサポートを行ってきた当社が、特に意識して注意しておくと良いポイント5つに絞っています。

海外進出の計画段階でここまで先を見通すことは難しいですが、たとえその後に方針変更の可能性があるとしても、将来の課題やリスクを予見することには意義があります。

これから海外進出を考えている企業のご担当者さまは、この記事であげた注意点をもとに海外進出を進めていくことをおすすめします。

また、YouTubeにて「海外駐在員の探し方」動画をアップしていますので、こちらも併せてご覧ください。


【海外駐在員の探し方】課題によって違う人材を海外に派遣すべき?これから経営現地化を進めていくためには?

また、海外進出・海外ビジネスなどのグローバル人材確保にお悩みの場合は、JAC Recruitment海外進出支援室にご相談ください。企業さまに合った進出国・最適な人材をご紹介いたします。

次回は、海外進出企業10社へのインタビュー記録をもとに、人材確保の具体的な取り組みをご紹介します。

この記事の著者

この記事の筆者

佐原 賢治

海外進出支援室 室長


大学卒業後、一貫して「人材採用」に関する業務に従事。現在はJAC Recruitmentのマーケティングスペシャリスト、およびアナリストとして活動中。専門分野は『日本企業のグローバルビジネスと人材戦略』で、年間4~500社の経営者・海外事業部長・人事部長らとお会いして、国内外における人材採用に関するコンサルテーションを行なっている。また同テーマに関する定期的なリサーチを行ない、その結果をメディアや自治体・金融機関等が主催するセミナー等で発表している。

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