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人材戦略

グローバルビジネスにおいて即戦力となる人材 グローバルビジネスにおいて即戦力となる人材

第1回.海外進出の流れ~
日本企業の海外事業は進化する

※本稿は 2022年12月5日の日経産業新聞に掲載されたコラムをもとに、加筆・修正したものです。

日本企業が海外進出するにあたり、人材獲得競争はその成否に一層大きな影響を及ぼすようになっており「採用力」 を高めることは急務です。
私たちJAC Recruitment 海外進出支援室では、日々多くの海外進出企業から国内外における人材採用についての相談をお受けしています。
本コラム『グローバルビジネスと人材戦略』では、海外進出企業が押さえておくべき人材確保の要点を、以下5回にわたって解説します。

  1. 海外進出の流れ ~日本企業の海外事業は進化する(本記事)
  2. 海外進出の流れ ~海外事業の進化の先にあるもの
  3. 海外進出の流れ ~初めての海外進出、人材はどう手配するのか
  4. 企業が海外進出する際に注意すべきポイント5選
  5. 海外進出と人材戦略 ~成功した日本企業の事例と成功要因

コロナ禍が落ち着き、海外事業求人数はピーク時の87%まで回復

厚生労働省が発表した 2023年1月の有効求人倍率は1.35倍と、コロナ禍によって最も数字が落ち込んだ2020年8月(0.99 倍)から大幅に改善しています。

昨年(2022年1-12月)、人材紹介会社である当社に寄せられた海外事業要員募集(経験者採用)の求人も前年から続伸し、新規求人申込数は、ピーク時(2018 年)の87%にまで回復しています。

国際協力銀行の調べによると、コロナ禍によって低下していた我が国製造業による海外生産比率も 2022年度はほぼピーク時並みを回復することが見込まれていることなどから、海外事業要員募集は今後もより活発化することが予想されます。
コロナ禍に伴い新規の海外進出は停滞していましたが、既に進出している国や地域への追加投資を含め、日本企業の対外投資意欲は目に見えて回復しています。

さて、ここで注目すべきは求人の職種の内訳に変化が見られることです。求人の総数としてはピーク時に満たない中で、次の 2つの職種については顕著に増加しているのです。

■海外事業分野で増加している2つの職種
① 研究開発(R&D)職
② IR(投資家向け広報)

一つは研究開発(R&D)職の募集で、これは 2022年10-12月の新規求人数が 2018 年比 120%と増えています。もう一つはIR(投資家向け広報)で、件数としては前者ほど多くないものの同130% と大幅に増加しています。

これには、ビジネス環境の変化に加えて、日本企業による「グローバルビジネスの進化」が関係しています。
ここからは、日本企業のグローバルビジネスの進化とは具体的にどういうことか、またその進化が各社の人材需要(求人)にどのように影響するかを解説します。

海外進出(グローバルビジネス)を行うまでのフェーズ

日本企業が海外進出を行うにあたって、グローバルビジネスにはいくつかのフェーズがあります。大きく分けて以下3つのフェーズが挙げられます。

  1. グローバルビジネス1.0:海外拠点を置かず貿易で海外市場にアクセスする段階
  2. グローバルビジネス2.0:いよいよ海外進出、子会社の設置
  3. グローバルビジネス3.0:国境を越えて最適な経営資源・ビジネスパートナーを求める

グローバルビジネスフェーズ 1.0:海外拠点を置かず貿易で海外市場にアクセス

まず国内のみで事業を行なっていた企業が海外事業をスタートする段階から話を始めます。海外進出の前段階として、海外に事業拠点を置かず貿易によって海外市場にアクセスする段階です。

国内で開発・生産した製品を欧米先進国に輸出して外貨を獲得するモデルで、これは戦後~1960年代の我が国の高度経済成長に大きく寄与しました。
品質が高く、価格競争力がある日本の繊維製品・家電・自動車は急速な勢いで欧米の市場シェアを獲得し、その後の貿易摩擦の原因にもなりました。

最近では、日本酒や地域の特産品など、ジャパンクオリティでオンリーワンの製品を作る中小企業が、金融機関や JETRO(日本貿易振興機構)の支援を受けて海外に販路を拡げています。
さらに、部品・素材などのモノ作り企業が、海外進出の試金石として、マーケティングリサーチの一環で輸出販売を行なうケースもあります。ほかにも、アニメやゲームコンテンツなど工業製品以外の「ソフト」も輸出されています。
当初は貿易商社を介して行うことが多く、この段階では外国語力や貿易知識などについて、特に必要性が感じられない場合もあります。

グローバルビジネスフェーズ 2.0:いよいよ海外進出、子会社の設置

次に、いよいよ海外進出、すなわち海外に生産・販売などを担う子会社を設置する段階へと移ります。そのきっかけは、自ら海外に商機を見出して主体的に進出する場合もあれば、国内の主要取引先からの求めに応じて随伴することもあります。

また、海外進出の形態も、自前で法人を設ける場合、国内や現地の企業と合弁で新会社を設立する場合など様々です。
その背景や現地での事業内容によって必要となる人材も異なりますが、現地駐在や長期出張などによって物理的に海外にその身を置いて働くことができる人材が必要となります。
駐在員として海外に派遣される人材は、現地で組織や事業の「マネジメント」を担うことから、多くの場合、管理職層から選任されることになります。

しかし、特に大手に比べて人的資源に乏しい中堅中小企業では、高いマネジメント能力を持つ管理職の数は充分でないことも多く、その配属をめぐって国内部門と海外部門の折り合いがつかないことや、そのうえ英語力や海外適性をも併せ持つ人材は一層少ないため、多くの企業が海外駐在員の人選に頭を痛めています。
これは海外進出にまつわる最も一般的な課題といっても過言ではありません。

海外進出の初期段階では、外国語ができる人材の必要性が広く社内で認識されるため、新卒採用では英語力や海外留学経験を重視した募集・選考が始まることも少なくありませんが、それによって採用した人材が管理職や中核人材として活躍するようになるまでには長い時間を要します。
「任せたい人(仕事ができる人)は英語や海外が苦手であるのに対し、英語が堪能な人は、その仕事を任せるにはまだ早い」といったジレンマ(仕事力と英語力のトレードオフ)が生じます。

グローバルビジネスフェーズ 2.3:当該国で生産した製品の第3国への輸出



1つ前の「グローバルビジネス 2.0」では、現地の経営資源やサプライチェーンを活用してより深く現地市場に浸入する段階でした。

このグローバルビジネス2.3フェーズでは、現地での進化が挙げられます。
海外現地法人には、子会社とはいえ一つの独立した法人としての収益性や成長性が求められることもあり、ビジネスは現地でさらに進化を続けます。

進化の一例は当該国で生産した製品の第 3 国への輸出です。当該国では増産のための追加投資、すなわちラインの増設や第 2・第 3 工場の新設が行われます。
特に経済成長の著しい新興国においては環境変化のスピードが速く、組織づくりが遅れてしまうとせっかくのビジネスチャンスを逃してしまうことになりかねません。

海外進出とそれに伴う要員について計画する際には、“次の段階”まで先回りで考えておくことが重要です。

グローバルビジネスフェーズ 2.7:現地市場で需要のある製品・サービスの開発拠点設立



「グローバルビジネス2.3」における現地での増産や第三国への輸出に加え、より現地市場で求められる製品やサービスを創るため、現地に開発拠点を設ける動きもあります。

それらに伴ってマネジメントの範囲は拡がり、派遣する駐在員の数を増やす必要性が生じます。
また品質管理や生産技術など様々な分野で本社が関与(指導・支援・管理)すべき機会も増えますので、本社サイドにも日常的に海外拠点と関わる仕事をする人や、折に触れて海外出張を行う社員が増えていきます。

中でも、経営管理部門で「それまでは必要がなかった人材」の需要が顕在化するのもこの段階です。
多くの海外進出企業では、海外駐在要員需要の増加に人材確保が間に合わず、駐在員の任期は長期化傾向にあるほか、技術・生産部門では海外出張の負担が一部の人員に集中するといった問題も見られます。

一方、間接部門についても新たな要員需要が生じます。
人事部門では、増加した海外駐在員の管理や評価・処遇を行うための人事制度や規程が必要になる一方、各国子会社の従業員数が増えることに伴い、日本とは異質な労務問題に対応する機能(専門家)も備えなければなりません。

また海外連結会計や国際税務などに対応する経理部門や、海外の法律に親しみ・各国現地の弁護士との折衝が可能な国際法務機能の充実も、現実的な課題となってきます。
これら本社管理部門の国際化対応は、海外進出企業にとっては避けて通れない道であると言えます。
それと同時に、増え続ける海外駐在員の人件費が国内外で負担となってくることからも、「経営現地化」の必要性も間近な課題として語られるようになります。

<グローバルビジネス 3.0>国境を越えて最適な経営資源・ビジネスパートナーを求める

そして近年、特に先端分野のビジネスで目立つようになってきたのは、企業が国境を越えて最適な経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)やビジネスパートナーを求める動きです。(海外進出の進化形)

グローバル化が進んだ昨今、ビジネス競争の勝敗は、この国境を越えたリソース獲得競争によって決まるといっても過言ではありません。

かつて、技術力で絶対的な優位性を誇った我が国製造業においても、電気自動車(EV)関連の技術・エネルギー・化学などの分野を中心に、大手企業が次々と海外企業との連携を進めています。

そしてこの「グローバルビジネス 3.0」への進化が着々と進んでいることが、冒頭で述べた海外事業要員募集における職種の変化にも表れているのです。
R&D部門では、専門分野の知見と、海外の研究者やパートナーとの共同研究や議論を行うために必要な英語力の両方が求められます。
一方的に指示・命令を行なうだけでなく、時に、まだこの世に存在しないモノを創るプロセスでビジョンや理想を語ったり、共感・共鳴を促すような高度な異文化コミュニケーション能力を発揮したりすることが期待されるのです。

またIRに求められるのは、各国の開示基準や世界の投資家が真に求める情報について熟知した上で、自社の財務状況や事業展望・SDGsへの貢献などを世界に向けて発信する能力です。
広く世界の動向や投資家情報にアンテナを張り、自社の情報を適時かつ適切に文書や口頭で魅力的に表現・発信するためには、読む・聴く・書く・話すといった四技能全般にわたる高度な英語力が必要となるのです。
今回は、多くの海外進出企業がたどる足取りと都度見舞われる課題について概観しました。次回はコロナ禍以降のトレンドについてお伝えします。

この記事の著者

この記事の筆者

佐原 賢治

海外進出支援室 室長


大学卒業後、一貫して「人材採用」に関する業務に従事。現在はJAC Recruitmentのマーケティングスペシャリスト、およびアナリストとして活動中。専門分野は『日本企業のグローバルビジネスと人材戦略』で、年間4~500社の経営者・海外事業部長・人事部長らとお会いして、国内外における人材採用に関するコンサルテーションを行なっている。また同テーマに関する定期的なリサーチを行ない、その結果をメディアや自治体・金融機関等が主催するセミナー等で発表している。

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