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人材戦略

グローバルビジネスにおいて即戦力となる人材 グローバルビジネスにおいて即戦力となる人材

第3回.海外進出の流れ~
初めての海外進出、人材はどう手配するのか

本コラム『グローバルビジネスと人材戦略』では、海外進出企業が押さえておくべき人材確保の要点を、5回にわたって解説しています。

海外進出と人材確保シリーズ(全5回)

  1. 日本企業の海外事業の進化 ~3つの発展段階
  2. 海外事業の進化と必要な人材の変化
  3. (本記事)初めての海外進出、人材はどう手配するのか
  4. 人材確保で注意すべきポイント5選
  5. 日本企業の成功事例とその要因

海外進出企業にとって、国内外での人材獲得競争は事業の成否にいっそう大きな影響を及ぼすようになっており、「採用力」を高めることが急務です。

これまで「第1回.海外進出の流れ~日本企業の海外事業は進化する」 「第2回.海外事業の進化の先にあるもの」の2回にわたって、日本企業の海外事業は徐々に進化し、その進化にともなって次々と“それまでは必要がなかった人材”が必要になることについて事例を交えて述べてきました。
海外事業の進化の中で、特に大きな進化が海外進出(海外に現地拠点を設けること)です。海外進出にともない、現地拠点で働くナショナルスタッフ(現地人材)の雇用が始まるのに加え、日本本社においても、現地駐在や長期出張などによって物理的に海外にその身を置いて働くことができる人材が新たに必要となります。

本稿では、初めて海外進出する際の、人材の手配方法・駐在員の見極め方・育成方法・駐在要員を生み出す仕組み作りなどについて解説していきます。

海外駐在員の"採用力"は海外進出の成否にかかわる

多くの海外進出企業にとって、ナショナルスタッフの採用は、言葉の壁や日本との労働慣行の違い、賃金相場の上昇など、簡単ではありません。 そして、その難しい採用を必ずしも採用に慣れているわけではない駐在員が行うことでいっそうの苦戦を余儀なくされるのです。

当社が2017年8月に東南アジアの日系現地法人を対象に実施した調査によると、回答した500社を超える現地法人のうち、赴任前に人事の経験をもつ人材が駐在員として派遣されているのは約10%で、その多くは同一法人に複数の駐在員を派遣している比較的規模の大きい企業でした。

日本でもほとんど人材採用に携わったことがない駐在員にとっては、求人要件の定義(言語化)、適切な採用チャネルの選定、面接や条件交渉など全てが手探りです。

しかしだからといって立上げの組織を固める採用がおろそかになってはいけません。採用に対する駐在員の“不慣れ”をどのように補うか、は新規海外進出の大事な論点です。

海外駐在員の採用に対する“不慣れ”の対策として、現実的には「①本社が支援する」「②適切な外部パートナーを見つける」のいずれかです。

駐在員の採用に対する“不慣れ”対策

本社による支援は、人事部の採用担当か、中途採用で国際部に入社した過去に海外赴任の経験がある人によって行われます。

募集を始めるための準備や計画のノウハウは人事部にありますし、採用担当者の中にもし英語が得意な人がいたら、活躍の場が得られたとばかりに積極的に動いてくれるでしょう。また、過去に海外赴任をした人は、現地のエージェントにネットワークをもっていることは珍しくありません。

もし人事部に英語が得意な人もおらず、忙しくて手が回らない、また事業部門にも海外赴任経験をもつ人がいないという場合は、海外にも事業拠点をもつ人材紹介会社にコンタクトをすると、手っ取り早く必要な情報を得ることができます。

ちなみに欧・米・アジアの計11カ国に子会社をもつ当社にも、コロナ禍による渡航制限が緩やかになったいま、再び数多くの相談が寄せられるようになりました。相談者のほとんどは、許認可申請手続き・オフィスや工場の立上げ・販路の開拓に加えて自身の赴任準備という“マルチタスク”に忙殺される駐在員本人ではなく、本社の人事部や国際部の方々です。

実際の採用業務は駐在員本人、フィードバックを何度も行うと良い

実際に募集が始まり、応募者との面接の段階になると、それを行うのは駐在員本人です。ただ、面接に慣れるまでは、応募者に適切な質問を投げかけて採用のぜひを見極めながら、入社後に期待する役割やアウトプットを正確に伝え、かつ自身の姿を通して自社の魅力を十分に伝えることは非常に難しいのが現実です。

無意識のうちに応募者に視線を向けることなく履歴書を凝視してしまったり、(日本人よりは少し多めの)転職歴のみに関心が向かうあまり、これまでの転職歴について尋問のような質問を繰り返してしまったりするものです。

また反対に、自身の思いや事業方針について延々と語ってしまい、相手からは合否を判断するに十分な情報を引き出せないケースも経験の乏しい面接官が陥りがちな失敗です。

国内と海外では多少勝手は違うものの、姿勢・表情や質問の進め方といった面接の基礎は、赴任前研修の一環として、たとえ30分でも時間を取ってレクチャーしたり、最初のうちはベテランの採用担当者がオンラインで面接に同席したり、面接官に対してフィードバックを行うなどのサポートをするとよいでしょう。

海外進出の初期段階で意識すべきこと ~海外駐在要員を生み出す仕組み

ここからは、海外駐在要員を生み出す仕組み作りについて解説していきます。

海外で長く事業を続けるため「次に派遣する人材」を常に考える必要あり

第1回のコラムで、海外駐在要員の選任をめぐっては多くの海外進出企業が「仕事力と英語力のトレードオフ」に頭を痛めていることを述べました。これは初めて海外進出する企業に限ったことではなく、すでに何十年も前から複数の国に進出し、何人もの駐在員を派遣している企業においても同じことです。

これから海外に進出する企業にとって、それは「失敗すれば撤退すればよい」というような気軽な意思決定ではないはずです。
すなわち、一度海外進出をしたからには、長く現地で事業を続けることはもちろん、事業や組織を進化、拡大させていきたいと考えているかと思います。

そしてそれは、海外進出をするほとんどの企業にとって、今後、長きにわたって海外駐在員を派遣し続けなければならないということと同義です。よって、進出が決定した段階では、最初に派遣する駐在要員を誰にするか(どう確保するか)を考えるだけでなく、「次に派遣する人」「次の次に派遣する人」をそれぞれどうするかについても、考えはじめなければなりません。

海外進出の駐在員決定の際、特定の人に依存しないことが重要

海外進出が決定した後、駐在員として派遣する人材を具体的にどのようにすればよいかについては、拙著「海外事業を加速する 中途採用の成功法則」(アメージング出版,2023年6月発売)で事例を交えて詳しく説明していますが、重要なことは特定の誰かに依存する状況をあらかじめ回避することです。

そのためには任期を定めてローテーションを行うことが必要ですが、仮に今すぐに派遣する人材が社内にいなかったとしても、5年後に派遣する人材・10年後に派遣する人材…は経験者(即戦力)採用だけでなく、新卒採用や教育研修などあらゆる手立てを講じると、十分に作りだすことができるのではないでしょうか。

そしてこのローテーションは、本社の中に着実に海外駐在経験者が増えていくところに意義があります。この海外駐在経験者は、日本(本社)にいながら現地駐在員を強力に支援することができます。裏を返せば、強固な支援体制があれば、経験・能力的にやや心許ない人材を駐在員として派遣しても、いざという時には手助けをすることができるということであり、それは駐在要員を見いだす上で選択肢を拡げられるということでもあるのです。

初めての海外進出における人材手配方法まとめ

「人材はどう手配するのか」という本稿のタイトルから、もっと具体的な採用の手法(How)を期待して読んで下さった方にとっては期待外れであったかも知れませんが、私がお伝えしたいことは、必要に迫られてタマゴを手に入れようとするのではなく、安定的にタマゴを産み出すニワトリをいかに確保するかが重要だということなのです。

海外進出の初期段階でこの仕組みを意識した取り組みを始めることは、特定の“誰か”に依存することのないサスティナブルな海外事業、すなわち海外進出の長期的な成功を作り上げることにつながります。

また、海外進出の駐在員人選方法については、動画でも解説していますのでそちらも併せてご覧いただければと思います。


【海外駐在員の探し方】課題によって違う人材を海外に派遣すべき?これから経営現地化を進めていくためには?


この記事の著者

この記事の筆者

佐原 賢治

海外進出支援室 室長


大学卒業後、一貫して「人材採用」に関する業務に従事。現在はJAC Recruitmentのマーケティングスペシャリスト、およびアナリストとして活動中。専門分野は『日本企業のグローバルビジネスと人材戦略』で、年間4~500社の経営者・海外事業部長・人事部長らとお会いして、国内外における人材採用に関するコンサルテーションを行なっている。また同テーマに関する定期的なリサーチを行ない、その結果をメディアや自治体・金融機関等が主催するセミナー等で発表している。

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