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人材戦略

海外駐在員の資質とは 海外駐在員の資質とは

海外駐在員の資質とは
――人選・採用の現場から

海外駐在員の資質とは
――人選・採用の現場から

海外駐在員の派遣は、海外進出や海外事業の成否に重大な影響を及ぼす企業にとっての一大事です。
一方、赴任者にとっても、海外駐在は自身のキャリアはもちろん、家族の人生さえも左右しかねない問題です。

企業と赴任者の相互のリスクを最小化し、海外事業を持続的なものとしていただくため、海外駐在員の人選・採用に必要な手順3つをお示しします。

 海外駐在員の人選・採用に必要な手順3つ

それぞれのポイントについて、以下より解説していきます。

海外駐在員人選・採用ポイント1. セオリーを掘り下げる
~自社のビジネスに応じて役割・要件を言語化する

図1

【図1】グローバルビジネススキルセット
(筆者造語、拙著「海外事業を加速する中途採用の成功法則」P.57より)

海外勤務で活躍が期待できる海外駐在員の不足は1980年代から日本企業の課題として取り上げられてきました。
グローバル人材の要件、すなわち海外駐在員に必要な資質については、すでに多くの研究者や人事の専門家から発信されているほか、それを養う教育研修プログラムも数多く存在します。

私が、著書の執筆にあたり10社の経営者や人事部長に対するインタビューを行ったところ、先人によって定義されたものと大きな違いはありませんでした。

>著書「海外事業を加速する 中途採用の成功法則』(アメージング出版)」紹介記事

しかし、議論や検討をここで止めてしまうべきではありません。なぜならば、「異文化コミュニケーション能力」ひとつをとってみても、各社ごとのビジネスや現地法人の陣容や発展段階などによって異なるからです。

実際に、インタビューを行った10社のほとんどで海外駐在員に必要な資質として「異文化コミュニケーション能力」が挙げられましたが、それがいかなるものかを掘り下げて尋ねたところ、次のようなバラつきが出ています。

海外駐在員に必要な資質「異文化コミュニケーション能力」とは(企業10社インタビュー結果)

  • ●ユーザー・ディストリビューター・仕入先と心を通わせて自社の考えに対して共感を促すことができる(C社)
  • ●日本人とは異なるコミュニケーション特性をもつ現地スタッフに対して”言葉で指導する”ことができる(D社)
  • ●現地事情を受容し現地人材の自主性を促す指導ができる(E社)
  • ●異文化の中で埋没せず考えを主張した上で、組織やプロジェクトをリードすることができる(F社)
  • ●ユーザーニーズの文化的背景と自社製品の設計思想(こだわり)といった必ずしも図面や文書に表れない内容で相手と合意点にたどり着くことができる(H社)

このように、「異文化コミュニケーション能力」1つをとってみても、バラつきがあります。

【図1】の「マネジメント力」「技術力・現場力」「問題発見・解決力」「異文化コミュニケーション能力」「メンタル・マインド」それぞれの要素について、現地でのビジネスの計画や戦略(事業戦略・人材戦略)に照らし合わせて丹念な言語化を行うことが、その後の人選や育成を適切に行う上で重要です。

技術力に優れている人材でも、海外生活への適応が危ぶまれる繊細過ぎる人物を派遣することがあってはなりませんし、チームの売り上げ目標達成率に置き換えられた評価点のみで「マネジメント力=“A”」と評価された国内営業部の課長が、現地のナショナルスタッフによる現地企業に対する営業を適切にマネジメントできるとは限りません。

そのため、自社のビジネスに応じた役割・要件を言語化することが重要です。

海外駐在員人選・採用ポイント2. 候補者を挙げ、育成する
~キャリアマネジメントの観点

海外駐在員の人選を行う際、まず目をやるのは既存の従業員である場合がほとんどです。一方で、社内を見渡してみても駐在員として海外に派遣できるような資質をもった人物はいない、という理由で中途採用募集の相談を受けることも少なくありません。
なぜ適任者がいないのか。結果論で、またいささか厳しい言い方になってしまいますが、それは準備をしてこなかったからと言わざるを得ません。
準備には、企業が行う準備と赴任者本人が行う準備があります。そして、個人が準備を行うためには明確な動機が必要です。
「オマエ、来年にはシンガポールに派遣させようと思っているから英語は勉強しておけよ!」。
この上司は、本人がシンガポールに赴任してから困らないように早めに伝えたつもりかもしれませんし、本人も、仕事はもとより日常生活で困るのは自分ですから必死になって勉強をするかもしれません。

しかし、この人が海外駐在をするために身に着けなければならないスキルは英語力だけではない可能性があります。

>関連記事:海外駐在員の作り方 ~行きたい人を現実的な海外駐在要員にするために必要なこと5選

「帰ってきたら部長(昇進)だからな、頑張れよ!」。

将来の幹部候補育成のための“修羅場体験”の一つとして海外赴任が位置付けられていることも少なくありません。実際にこう言われて送り出される人は、これから始まる海外駐在に対して強いモチベーションをもって臨むでしょう。しかしそれが、部長として求められるスキルや経験値を身に着けることにつながるかというとそうではない場合があります。

部長と課長の大きな違いは、管理職のマネジメントができるかどうかです。最悪の場合は自分が動くことで問題解決すればよい課長に対して、より組織的な問題解決を行い組織の持続性を高めることができるのが部長です。

海外で「現地人材は使えない」とばかりに全てを自身で背負って任期中の目標を達成し、帰任した人が、部長としてのスキルを身に着けているかというと必ずしもそうではありません。

海外駐在の経験やその意義を自らのキャリアプランの中で明確化しているような人を除き、企業が動機付けて駐在要員を作り出そうとしている場合、単に赴任期間中の実務やモチベーションだけにフォーカスしてそれを行うのを避けると良いです。その人との対話の中でキャリアを俯瞰して眺め、その人のキャリアアンカーやキャリアゴールと関連付けながら身に着けるべき経験値やスキルを明確にした上で、海外駐在に主体的な意義を見出してもらうようにすることが重要です。

海外駐在員人選・採用ポイント3.
要件をアップデートする ~ライフサイクルに応じた人選

一般的に、駐在員として海外に派遣されるのは仕事ができる人です。
実務能力のほか問題解決能力にも長け、心身ともにタフで、そしてリーダーシップに溢れたエース級の人材です。大抵の問題は自らハンズオンで解決することでナショナルスタッフの尊敬を集め、求心力の強いトップダウン型の組織を作り上げていきます。

一方で、事業や組織の「現地化」を進めていく段階においては、ナショナルスタッフの自主性を引き出し、権限委譲を進めていくこと、またそれにともない日本人駐在員や日本本社の役割を「統率」から「支援」へと変えていく必要があります。その「権限移譲」や「育成・指導」に求められる能力は必ずしも先述のトップダウン型のリーダーに求められるそれとは異なります。

2017年に私がアジアに赴任している邦人駐在員に対して行ったアンケートでは、現在行っているマネジメントと今後必要となるマネジメントスタイルとが必ずしも一致しないことが分かりました。

図2

【図2】駐在員の“強み”とマネジメント上で重要なこと(拙著「海外事業を加速する中途採用の成功法則」P.85より)

>著書『海外事業を加速する 中途採用の成功法則』(アメージング出版)紹介記事

海外子会社の発展段階や都度の課題に応じて、それにふさわしいマネジメントを得意とする駐在員を派遣することができるよう、駐在員に求められる資質についても随時アップデートした上で、それを満たす人材の確保を計画的に行う必要があるのです。

まとめ:海外駐在員の人選方法・必要な資質とは

このコラムは、海外進出を行う日本企業が将来的に海外駐在要員の人選に困ることがないよう、また海外への派遣を通して赴任者がかけがえのない経験値を身に着けて帰任することが、企業と赴任者の双方にとって有意義な財産となるよう、行うべき準備についてお伝えしてきました。
海外駐在員の人選・獲得に必要な手順を改めてお示しします。

  1. セオリーの掘り下げ(自社ビジネスにおける役割・要件の言語化)
  2. 候補者を挙げ、育成する(キャリアマネジメントの観点をふまえる)
  3. 要件をアップデートする(ライフサイクルに応じて役割・必要な資質を再定義)

2.では海外駐在員として派遣する個人(赴任者)のキャリア形成に意義のある形に言語化することが重要です。
また、1.や3.を検討した結果、社内に適任者がいない場合は社外から採用をしなければなりません。
採用は、募集~選考~入社まで一連のプロセスに要する時間を勘案すると、遅くとも3~6カ月前から動き始める必要があります。

グローバル人材の採用市場の状況を知りたい、海外駐在員に求められる資質を自社なりに言語化したい、またそれを踏まえて魅力的な求人票を作成したい、という場合は、ぜひお気軽にお申し付けください。

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